【本紹介】プラド夏樹著 「フランス人の性〜なぜ「#METOO」への反対が起きたのか〜」
公開日: 18/06/2025
公開日: 18/06/2025
フランス発のマッチングアプリであるNouslib(ヌーリブ)には、スワッピングやカンダウリズム、BDSMといった内容を赤裸々に語った体験談が多く掲載されていますが、こうした内容はなかなか日本では捉えにくい話と捉えられるかもしれません。
Nouslibの記事を翻訳して日本版にも多く掲載していますが、編集部ではこうした記事は、「なかなか日本では受け入れられにくいのではないか」という意見も日本版開始当初から少なからずありました。
これはおそらく日本とフランスの恋愛観、性愛感の違いからくるものと言えるでしょう。一言で言えば「文化の違い」というものです。
そうした性に関した価値観の違いを把握するためにぜひ読んでいただきたいのが、フランスの恋愛や貞操観念、不倫や結婚といった価値観を、歴史や宗教的観点から深く掘り下げている、プラド夏樹著「フランス人の性〜なぜ「#METOO」への反対が起きたのか〜」(光文社新書)です。
歴代の大統領が次々と不倫をしていたり、「『不倫はモラルに反しない』という最高裁判決」や」「心変わりは自然の法則にかなったこと」など、日本に限らず、世界各国、特にキリスト教のピューリタン的思想が強いアメリカなどからは、フランスでの性に対する姿勢は理解されにくいだろう事例が取り上げられています。
本著で重要なのは、こうした「性に関して奔放」のように捉えられがちなフランスの性への態度をしっかりと政治や歴史、文化など様々な面から合理的に解説していることでしょう。
一見、ニュースなどで報じられている内容だけを見ると、「フランス人は性に関してはモラルがないのかな?」と単純に考えてしまいがちですが、その背景には歴史や思想、そして、男女間の寛容さがあることが示されています。
私たちが一般的に性に関してはモラルの問題として断罪する一方で、フランス人は他人をそのように断罪することを控える傾向があります。こうした背景には性や恋愛に関して寛容さを美徳とする歴史的背景、そして著者が「先進国」と呼ぶように、フランスでは性教育が子どもの頃から徹底されていることが紹介されています。
もちろん、フランス国内の中でも親子で性に関して話題にすることに否定的な親もいるようですが、国内では様々な性に関する催しや学校教育によって、子どもからセックスや避妊具に関して親に質問を投げかけることが普通に行われていることが行われているというのを知ると、日本としてもこうした文化は取り入れるべきなのではないかと考えさせられます。
不倫が報じられた大統領が記者から問い詰められても「それで?」と返すことからも性については「アンモラル」と言われてしまうフランスですが、これについても著者は歴史から紐解き、誤解であると主張します。
特に17世紀後半から18世紀にかけて啓蒙思想が花開いたフランスでは「自由とは何か」が追い求められ、啓蒙思想を基盤としてフランス革命が起きます。
この「自由」について、現代に至るまでフランスでは議論されてきており、「その結果、恋愛とセックスの自由は、(中略)約1400年にわたるキリスト教との熾烈な戦いの末に獲得した、かけがえのないものとして認識されている」と指摘するように、単純に「モラルの問題」と括られることなく、重要な権利として認識されているということです。
また、他人のプライバシーに関して興味を持つことも「あまりシック(粋なこと)ではない」という感覚もあるとのことです。
この本を通じて考えられるのは、性や愛について考えることが、男性らしさや女性らしさとは何かということまで深く追求していることでしょう。
タイトルにあるようにハリウッドのセクハラ事件に端を発した「#METOO」を題材として取り上げ、その中でフランスでは世界各国よりも、反発が少なかったことが語られています。
一方で、著者は「法改正で解決することよりも教育が大切」という意見が主流になってきていることを指摘します。そしてこの教育によって、「システム」を変革することが重要であると言います。
女性だけでなく、男性も男性支配主義に支配され、そのシステムから外れた男性は差別され、路頭に迷う。そうした事態を変えるためにも男性も女性もシステム全体を疑い、その中で恋愛やセックスについて考えてみるべきだとして、マニュアルや社会的な潮流にただ流されるだけでなく、自分の頭で考え、「性」を捉えようとすることがとても響く良書です。
「自由恋愛」は、より「自由」な性の関係を意味します。従来の法律や倫理観に縛られることなく、複数者間の恋愛や性、性的嗜好などに正直であろうとする考え方であり、姿勢です。様々な価値観が認められる現在において、注目される「自由恋愛」について解説します。