【本紹介】荻上チキ著 「もう一人、誰かを好きになったとき」 100人以上のポリアモリーにインタビューした「複数恋愛」の今

公開日: 10/02/2025

Un couple qui s'est rencontré sur Noulib se donne la main

ポリアモリーについて100人以上に取材をし、その実態を浮かび上がらせた国内初のルポルタージュ本をご紹介します。

一夫一婦制を採用する日本では、複数人と恋愛関係を持つことが認められず、すでに婚姻関係にある人が別のパートナーと関係を持つことは、不貞行為と見なされれば違法となる可能性があります。

そうした中、2024年7月にSNS上である男性が「留学していた妻が彼氏を連れて帰ってくる」という主旨の投稿が大手メディアやネットメディアに取り上げられたことで、ポリアモリーという言葉が注目されました。

ポリアモリーとは、「特定複数のパートナーと親密な関係」を築くことを意味します。恋愛関係だけでなく、性的な関係も含まれる言葉です。元々はヒッピー文化の流れをくみ、1990年代初頭にアメリカで生まれた造語であるポリアモリーは、日本ではおそらく社会的・文化的に受け入れられず、これまで広がることはなかったのでしょう。

社会に認められないのであれば、当事者たちもオープンにはしづらいものです。

しかし、このポリアモリーの実態を世の中に広く周知したきっかけとなったのが本著「もう一人、誰かを好きになったとき」です。

多くの人が身近にはポリアモリーがいないと考える中で、100人以上への取材を通じて、その実態を浮かび上がらせた、ポリアモリーをテーマとした国内初のルポルタージュの本著。

複数の人と恋愛や性的な関係を築くことがタブーとされる現代社会で、ポリアモリーの様な関係は表にはなかなか出てこなかったと言えるその実態を、丹念な取材で描き出しています。

ポリアモリーは一見すると、自分自身の欲のために生きているとの批判も起こりがちなように思われます。しかし本著で描かれているように「自分の好きな人が幸せになっていることが自分の幸せ」「他人を自分で『所有』してしまう」ことへの抵抗感などは、今後ますます多様な価値観を認める社会になる中で重要な考え方ではないでしょうか。

愛する人が複数いるポリアモリー

本書を通じて描かれるのは、ポリアモリーの人々は決して全員が「性に奔放」なわけでも、スワッピングやSMの様なプレイが好きなわけでもない。共通するのはただ「愛する人」と過ごしたいと考え、そうした相手が複数いるという人々の様子です

複数人と付き合うことを求めるといっても、自身のパートナーが自分以外と過ごすことに対して嫉妬することもあったり、葛藤もするなど、一夫一婦制の人々と共通する価値観を多く持ち合わせていることがわかります。

また、一言に「ポリアモリー」と言っても共通しているのは愛する人が複数いる、ということであって、「ポリアモリーでビッチ」を自称する人やアセクシャル(恋愛関係は望んでも性的な関係は望まない人々)なポリアモリーなど、様々な人々がいることが本著では示されています。このことは、ポリアモリーの人々がモノガミー(一夫一妻のような一対一の関係のこと)と同様に多様な人々がいるといつことです。

著者の荻上チキ氏もあとがきの中で自身の小学生時代の話として「クラスの女の子の誰が好きか」と聞かれ、特定の誰かを答えられずに、複数の名前を挙げたことによって周囲から怪訝に思われたという過去を紹介していますが、この様に好きな人を特定の誰かに選べない経験をした人は少なからずいるのではないでしょうか。

しかし、このような多様性を認める上では、世の中で反発も起こりうることが予想されます。対話を進める中で傷つくこともあるかもしれません。法的にポリアモリーが認められる社会になるかは不透明でしょうし、そうした運動が起こるかもわかりません。

まずは本著を読むことで、対話のスタートラインに立つことができる。そしてその後の社会をどうしていきたいのかは私たちがまた考えるべきなのでしょう。


自由恋愛

「自由恋愛」は、より「自由」な性の関係を意味します。従来の法律や倫理観に縛られることなく、複数者間の恋愛や性、性的嗜好などに正直であろうとする考え方であり、姿勢です。様々な価値観が認められる現在において、注目される「自由恋愛」について解説します。