性のタブー視を解決するには? とぅるもちさんインタビュー

公開日: 15/04/2025

Un couple qui s'est rencontré sur Noulib se donne la main

日本では「セルフプレジャー」や「セックスウェルネス」といった用語が浸透してきています。「マスターベーション」よりも口にしやすいであろう「セルフプレジャー」は、ファッション誌などでもよく取り扱われることを見かけるようになりました。そして「ブーム」とも言えるほど「ウェルネス(健康)」が注目される中で、その一形態であるセクシャルウェルネスも国内外のメディアで取り扱われています。これは性的な快楽をよりポジティブに捉えていこうとする動きと言えるのでしょうか。

セックスカウンセラーとして、これまで1000人以上の悩みに併走してきた「とぅるもち(本名:萩原佳音)」さんに聞きました。

「快楽」として受け入れられるためには?

大手セルフプレジャーブランドが著名俳優をイメージアンバサダーとして起用したり、大手メディアに大々的に広告を掲載したりするなど、近年はタブー視されてきた性に関する用語が社会一般に受け入れられているように感じます。

ただ、これらの用語は現在、快楽というよりも、美容や健康への影響を強く打ち出しています。これはタブー視されている「快楽」という側面だけでは読者に受け入れられにくいためかもしれません。

とぅるもちさんはNouslibのインタビューに対して、次のように話します。

「セルフプレジャーにおける体への影響という側面に対しては、快楽というよりも主に美容や健康への意識が強いように思います。メディアに取り上げられているのも、セルフプレジャーによる睡眠の質の向上や肌への良い影響を打ち出している印象です。私自身は美容や健康に加えて、快楽そのものも良いものであるという意識へ変わっていく可能性はあるのではないかと考えています。」

性が快楽として受け入れられなかったり、タブー視されている状況が続いたりしている理由として、とぅるもちさんは教育の側面を指摘します。

「業界内や仲間内ではセルフプレジャーや性の用語に対して口に出すことに抵抗はありませんが、業界以外の人々の間ではやはりまだ抵抗は多いのではないでしょうか。学校など、公的な場で触れてくれる機会が今よりももっと増えていけば、『喋っていいものなんだ』という意識が生まれます。セルフプレジャーを含め、義務教育で性教育があまり多く時間を割かれていないのがタブー視されている一つの要因としてあるのではないでしょうか」

とぅるもちさんが指摘するように、実際に日本は諸外国に比べて性に関して教育で扱われる時間が少ないことが調査からわかっています。

日本全国の一定規模以上の中学校724校を対象にした調査(橋本紀子、茂木輝順ら:2017年)を引用したYahooニュースの報道では、日本の学校での性教育は、中学校の1年間で平均3時間を切るなど、ほとんど行われていないと言ってもいいレベルであることが明らかになりました。お隣の韓国では15時間、フィンランドでは17時間をかけているのに対して、日本はわずかな時間しか割かれていません。また、過去には、発展的な性教育の内容を扱った学校について批判が巻き起こったこともあり、学校側も消極的になっているのかもしれません。

こうした教育の影響かどうかはわかりませんが、日本では、性交渉の頻度が月に1回未満の男女が6割を超える(※)という調査結果が出ているように、性に対して消極的な面が強まっています。日本では特に性に寛容であることがタブー視されていることがセックスレスに影響しているかもしれません。
※【ジェクス】ジャパン・セックスサーベイ2024

公教育で取り扱われず、さらにセックスレスが進む日本では、性を「快楽」としてポジティブに目が向けられるのは難しいのでしょうか。

とぅるもちさんは「快楽は私たちが生活していく上で、必要なものであるはずなのに、セルフプレジャーを含めて性的な快楽を口にしたりする度に、どこか罪悪感を私たちが感じてしまう状態は『健康的』ではないのではないでしょうか。」と指摘します。

まずはコミュニケーションをとり、自分自身を知ること

性に関する「健康」は国際機関も重要視するほど世界中で注目され始めています。

現在、「性の健康」や「幸福」を意味する「セクシャルウェルネス」は、身体的、感情的、精神的、そして社会的にも性に関して健康で幸福な状態を意味する言葉です。

性およびジェンダーの多様性の認識と尊重を基本とする性への包括的なアプローチとして、世界保健機構(WHO)でもセクシャルウェルネスは取り上げられているほどです。快楽についてもポジティブな状態でなければ、このセクシャルウェルネスを達成することが難しいと言えるでしょう。

「【ジェクス】ジャパン・セックスサーベイ2020」によると、セックスを「性的な快楽のため」としている男性が69.8%に達しているのに対して、女性は24.4%に止まり、男女差が顕著になっています。この調査では女性の多くが性交痛を感じていることによる性的満足度が低いことが示されています。

同調査では、回答した女性の62.5%がセックスで「痛みを感じたことがある」と回答し、年齢を問わずに誰もが問題と捉えています。当然のことながら、痛みを感じていれば、性的な満足度も得られにくくなるでしょう。

この原因には、そもそも自分自身がどのような行為で気持ちよさが得られるのかがよくわかっていないことも一因と言えるかもしれません。とぅるもちさんは次のように指摘します。

「通常のコミュニケーションでは、『これはいやだから、もっとこうしよう』という代替案を気軽に言えるはずなのに、性の文脈になると、例えば女性からは『痛い』や 『ノー』という言葉を発するだけで終わってしまいがちです。自分が何を気持ちいいかがわかっていないと、具体的な代替案を言葉として出すことが難しいのではないでしょうか。」

こうした状況には、前述したように、性的な快楽について話すことがタブー視されている日本の現状が関係してきているのではないでしょうか。セックスカウンセラーとしても活動するとぅるもちさんは、まずは話すことやコミュニケーションの重要性を話します。

「話すことで気持ちが楽になるのであれば、気軽に話せる環境へのハードルは低い方がいいですよね。そもそも性の悩みはSNSやブログで発散することが多く『誰かに相談できるもの』という意識が低いように思います。まずは性に関して話題にあげるハードルを下げることが必要です。話したいときに、話したい人と話せる環境があるといいですね。もちろん、話したくないときは話す必要はありませんし、その選択の自由があるということが大切です」

性について、自分が何が気持ちいいのか、そしてそれについてコミュニケーションをとるために、自分が何を求めているのか、何に気持ちよさを感じているのかを把握する方法はあるのでしょうか。

日本において、自身の性的な好みを知るにはポルノ作品などから影響を受けることが多いのが現状でしょう。

性に関する内容はなかなか大っぴらに話せるものではなく、そのために、他の人の事例を知ることも日本ではなかなかできないのが現状です。

そこで、とぅるもちさんは、この「自分がなぜ嫌なのかがわからない」「何に気持ちいいと感じるのかがわからない」という状態を変えるために、アプリの開発を進めています。
アプリで複数の質問に答えることで、自分自身の性的な嗜好を知ることができる内容となっています。

主体性を持つということ

とぅるもちさんは、性に対して自分自身を知ることが「主体性を持つこと」につながると話します。そしてこの「主体性を持つこと」が「性に対して健康であること」すなわち「セクシャルウェルネス」だといいます。

「自身が性に対して、何を大事にしているのか、どこに気持ちよさを感じているのかを自分で知ることが大切です。相手に判断を委ねるのではなく、主体性をもち、自分で選択肢を選べる主体的な状態がセクシュアルウェルネスと言えるのではないでしょうか」

性に対する主体性を持つことは、自身の快楽や幸福感を深めるだけでなく、パートナーとの信頼関係を築く基盤にもなります。日本社会において性がタブー視される背景には、教育現場での性教育の不足や、性的快楽を語ることへの抵抗感があります。しかし、その結果として多くの人が自分の性的欲求や好みを理解できず、痛みや不満を抱える現状が生まれています。

とぅるもちさんが進めるような、アプリによって一人ひとりが性に関する嗜好を可視化する取り組みは、この状況を打開するための重要なステップと言えるでしょう。自分自身の性に向き合い、何が心地よいのかを知ることで、相手とのコミュニケーションも円滑になり、性的な満足度も高まります。これは単に個人の問題に留まらず、社会全体のセクシャルウェルネスの向上にも繋がります。

性教育の充実や性に関するオープンな対話が促進されれば、性に対する罪悪感や偏見が薄れ、一人ひとりが自分らしい性の在り方を見つけられる社会になるのではないでしょうか。

【プロフィール】
萩原 佳音(とぅるもち )[ 株式会社Unwind CEO ]

IT企業でのWEBディレクションとマーケティング業務を経験後、
自身の悩みや、多くの女子学生から性の相談を受けたことをきっかけにラブライフカウンセラー®︎の資格を取得。
年齢やジェンダー問わず、これまでに1000件以上の性の悩みに伴走。
2021年には「プレジャーを持って主体的に生きる人を増やす」を掲げ、株式会社Unwindを設立。
兵庫県・神戸市・UNOPS主催のSDGsCHALLENGE採択。
クラウドファンディングを過去2回成功させ、セクシャルウェルネスブランドmahoroの潤滑剤開発を始めとした、
性教育やコミュニケーションに関するワークショップ、コンテンツ監修、コミュニティづくり、WEBアプリ開発などを展開。
2023年、大阪公立大学ヘルステックスタートアップス採択。経済産業省J-StaX女性起業家支援プログラム採択。


性の健康

性に関して身体的、感情的、精神的、そして社会的に健康であることはもちろん、幸福であるにはどうすれば良いのでしょうか?Nouslib Magでお教えします。