カオスを求める理由:なぜ私たちは有害な欲望に惹かれてしまうのか

公開日: 26/11/2025

私たちは平穏を望むと口にしながら、いつの間にか嵐のような関係に惹かれてしまうことがあります。激しい始まり方をし、浮き沈みが激しく、深く傷つきながらも離れられなくなるような曖昧な関係に引き寄せられる人は少なくありません。この記事では、こうしたカオスな魅力の背景にある心理、トラウマボンディング、無意識に染みついた身体反応、そして不安定な愛が情熱のように見えてしまう文化的な物語について解き明かします。

このような関係には共通点があります。勢いよく始まり、相手に選ばれたような高揚感が走り、深く理解されているように感じるということです。届くメッセージはどれも快感をもたらし、恍惚に近い高揚が続きます。一方で落ち込むときは急に混乱し、距離感が崩れ、感情は揺れ続け、それでも離れられない。身体は疲弊しているのに、心はその刺激だけを追いかけてしまうのです。

あなただけではありません。

現代の恋愛でよく聞かれる告白にこういうものがあります。

「良くない相手だとわかっているのに、やめられない。」

問題は“起きるかどうか”ではなく、“なぜそうなるのか”です。

平穏ではなくカオスを求めてしまう理由

平穏ではなくカオスに惹かれてしまうのは、刺激が欲しいからではありません。もっと根本的な理由があります。
多くの場合、強い“化学反応”のように感じるものは、実は身体が覚えてしまった“慣れ”に近いのです。
もし幼い頃の愛情体験が日によって異なるものだったり、親の機嫌で変わってしまう場合、不安と愛情がつながったまま大人になることがあります。

静かな関係が退屈に思えてしまうのはそのためです。

緊張や感情の揺れ、離れて戻る繰り返しが、“これこそ愛だ”という感覚と結びついてしまう。身体がそのパターンを覚えているからです。

これが、セラピストが言う「トラウマボンディング」です。感情の高低差が中毒的なループを生み出すパターンです。

脳が有害な欲望に反応するとき

神経科学的に見ると、強烈な関係は「中毒」と似ています。

・相手が距離を置くと、不安やストレスが急激に高まる
・戻ってくると、安堵と快感のドーパミンが一気に放出される
・この繰り返しが、刺激と解放に依存するリズムをつくる

これはロマンチックな話ではありません。神経化学の問題です。
サイクルを重ねるほど、脳はその特定のリズムを追い求めるように配線されていきます。身体は火花と同じくらい「落ち込み」も求めるようになります。

文化がさらに火を注ぐ

映画や音楽では、激しく揺れ動く恋が魅力的に描かれます。
私たちは「真実の愛は混乱している」「欲望は飲み込まれるようなものだ」「嫉妬は情熱だ」「喧嘩は愛の証だ」と教え込まれています。嫉妬や衝突が“情熱”として扱われ、不安定な関係の方が特別なもののように見えてしまう。
しかし多くの場合、それは“身体の混乱”を美化しただけのものです。

穏やかな関係は派手さがないため目立ちませんが、実際に親密さを育てるのは混乱ではなく平穏です。

あなたがカオスに中毒かもしれないサイン

もし次のような傾向があるなら、その「中毒症状」を疑ってみてもいいかもしれません。
・一貫した態度を取られると退屈または不安に感じる
・相手が距離を置くほど強く惹かれる
・嫉妬や駆け引きを愛の証だと思ってしまう
・不安なのに離れられない

これは性格の問題ではありません。身についた反応です。パターンに気づけば、変え始めることができます。

失恋後の「ハングオーバー」

有害な関係が終わると、痛みが必要以上に大きく感じられることがあります。失うのは相手だけでなく、「高揚」そのものだからです。そのため、不眠・不安・執着的な思考が起きることも珍しくありません。身体が“刺激の欠如”に反応しているためで、その結果として、多くの人が戻ってしまいます。
安定を求めているのに、不安定な相手に向かってしまう矛盾が起きるのです。

癒しとは「書き換え」

有害な欲望から離れるには、欲求を抑え込む必要はありません。より安全な形で満たす方法を学ぶことが必要です。その第一歩は「健全な魅力」がどのように感じられるか知ることです。最初は物足りなく感じるかもしれません。静かで、穏やかで、少し退屈に思えることもあります。

でも退屈は悪いものではありません。それは神経系が落ち着きを取り戻しているサインです。真の親密さはカオスではなく、安全・存在・相互の敬意の積み重ねで育ちます。

次にできること

もしこの記事の内容に自分が当てはまると思うなら、覚えておいてください。あなたは壊れているわけではありません。ただ、経験やメディアや過去の傷によって、「つながり」ではなく「強烈さ」を追うように訓練されてきてしまっただけです。

以下のような、少しづつできる自分のためのステップを試してみましょう。
・自分のパターンを責めずに観察する
・ゆっくり進むことを選ぶ。あなたの神経系を急かす相手は適切ではない
・平穏を魅力的だと感じる練習をする。混乱よりも一貫性を求める報酬系に書き換える
・サポートを得る。セラピー、読書、日記、安全な友人関係など

穏やかな恋を選ぶことは妥協ではありません。それは変化であり、進化です。
私たちが「相性の良さ」だと思っているものが、実は過去の不安定な経験で身についた反応であることがあります。胸の高鳴りのように感じているものが、興奮ではなく不安であることもあります。愛とは、身体を燃やすものではなく、深呼吸できるようにしてくれるものかもしれません。

生きている実感を得るためにカオスを求める必要はありません。
平穏は情熱の欠如ではなく、本当の欲望の始まりです。


自由恋愛

「自由恋愛」は、より「自由」な性の関係を意味します。従来の法律や倫理観に縛られることなく、複数者間の恋愛や性、性的嗜好などに正直であろうとする考え方であり、姿勢です。様々な価値観が認められる現在において、注目される「自由恋愛」について解説します。