【本紹介】石島亜由美著 「妾と愛人のフェミニズム 近・現代の一夫一婦の裏面史」
公開日: 25/03/2025
公開日: 25/03/2025
本記事では石島亜由美著 「妾と愛人のフェミニズム 近・現代の一夫一婦の裏面史」をご紹介します。妾や愛人を歴史的に紐解き、現在、私たちが「当たり前」と思っている婚姻関係のあり方に、違った角度から光を当てています。
一夫一婦制の日本では、不倫や不貞の相手として「愛人」は社会的に卑しいものとして語られます。これは男性だけでなく、特に女性から批判の声が強いと考えられるでしょう。
それは愛人が、妻の愛情をある意味横取りして、さらに性的な対象として男性に捉えられているためかもしれません。
しかし、本著を読むと、愛人や「妾」という言葉は、現在のように否定的に語られてはいなかったことが示されます。
著者の石島氏はこの事実を歴史的に解き明かしていきます。
そもそも日本では一夫多妻が容認されてきた経緯があります。天皇家では明治天皇の時代まで側室が置かれていたり、江戸時代の武士や大名も後取りとして男性が跡取りとして必要とされたことで、側室や妾がいることが一般的でした。近現代でも政財界の時の権力者には常に愛人が「必要」とされていたことなど、正妻の他に側室がいたことがわかります。
この中で「愛人」とは明治時代に新たな文化として日本に入ってきた「恋愛」と強く結びついた言葉でした。
日本で「恋愛」という言葉が使われるようになったのは、明治時代からと言われています。「恋愛」は、文明開花とともに明治時代の日本に西欧の文化が流れ込み、「ラブ」に対する翻訳の言葉として登場しました。もちろん明治時代以前にも「色」や「情」という現在の恋愛に近い言葉はありました。しかし、これらの言葉は当時の知識人たちからは肉体的な要素が大きいと認識され、欧米の「ラブ」はより精神的に崇高なものとされたのです。そのため、恋愛は日本の「西欧に遅れている」というコンプレックスから生まれた言葉でした。
この恋愛という言葉が普及するにつれて、「愛人」という言葉は「恋愛をする人」というどちらかというとポジティブな意味で使われていたといいます。そのため、現在のような女性をイメージするものでもなく、男性にも用いられていました。
「その言葉(評者注:愛人のこと)の使用が勢いよく広まっていくのは、恋愛論ブームの時期と重なる一九二〇年代だったことがわかった。愛人は近代の恋愛概念の創出過程とともに歩み、恋愛を遂行することが思想的営為として知識人に評価された時代には、人々に好ましいものとして理解されていた」
この時期には、愛人は「婚姻の前に交際する恋愛関係にある相手」という意味で使われるなど、必ずしも現在のような夫の浮気相手という意味に限らなかったのです。
特に本著の第3章で指摘されるように、一夫多妻の婚姻制度が認められていた時代には、愛人に対して「妻が嫉妬すること」が批判されていたのが、一夫一婦制の思想が強化された1930年代にはこうした批判は収まっていきます。
こうした愛人や妾に対する意識が明確に変化していたのは戦争の前後であったことを著者は指摘します。
戦後の解放感の中で、一時的に愛人は作家によって「社会変革の理想を体現する先進的な女性」として描かれますが、その後はこの革新的なニュアンスが削ぎ落とされ、「婚姻外で男性とせい関係を結び妊娠や堕胎をする性的存在」という側面のみが押し出される、否定的なイメージで語られるようになります。
それは戦後に恋愛結婚が一般大衆化したことで、「妻」が恋愛と結婚の両方を担うようになったためです。そのために愛人から恋愛という要素が削ぎ落とされ、性的役割のみが残り、そこに焦点を当てた週刊誌報道などによってネガティブな側面が強調されていきます。
さらに1960年代には週刊誌などの報道で性風俗の一種や政治家とのセックス事情を暴露する存在として一般化されていきます。
ただし、現代になっても愛人はただ性の快楽の相手としての側面だけではありませんでした。それは夫と同じ職場で夫の仕事を補佐する事務員であったり、政治家の秘書であったり、その内容に幅はあるものの、夫を家の「外」での生産労働を支える存在としてあったということです。
こうした内容を解き明かしながら、本著は最後に現代の一夫一婦制について「夫と妻の労働によって一つの歯車が回転しているという認識自体に疑問をもたなければならない」と問題提起します。
愛人を歴史的に紐解くと、「男性に対する単なる性的快楽の相手」という現代の認識とは異なり、近代が推し進めてきた一夫一婦制を愛人や妾が補完する存在であったことがわかる良著でしょう。
「自由恋愛」は、より「自由」な性の関係を意味します。従来の法律や倫理観に縛られることなく、複数者間の恋愛や性、性的嗜好などに正直であろうとする考え方であり、姿勢です。様々な価値観が認められる現在において、注目される「自由恋愛」について解説します。